親の介護で縁を切ることは可能か。法的義務と自分を守る選択肢

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「もう親との縁を切りたい」

過去に虐待を受けた、ネグレクトされた、精神的に支配されてきた。そんな親の介護を求められた時、多くの方が「なぜ自分が」と苦しみます。愛情どころか憎しみしかない親を、なぜ世話しなければならないのか。

しかし、「縁を切る」という法的な仕組みは、日本の法律には存在しません。親子関係は、どんな事情があっても法的には切れないのが現実です。では、親の介護から距離を置くことは不可能なのでしょうか。

この記事では、親の介護で縁を切りたいと感じている方に向けて、法的な義務の実態と、自分を守りながら関わりを最小限にする現実的な方法を解説します。「縁を切る」以外にも、あなたを守る選択肢は存在します。

親の介護で縁を切ることは法的に可能なのか

「親と縁を切りたい」と思った時、まず知っておくべきは法的な現実です。感情と法律は、必ずしも一致しません。

日本の法律では親子の縁は切れない現実

日本の民法では、親子関係を法的に断絶する制度は存在しません。「縁を切る」という言葉はよく使われますが、これは法律用語ではなく、感情的な意味での絶縁を指すに過ぎません。

戸籍から親子関係を消すこともできません。養子縁組であれば離縁という手続きがありますが、実の親子の場合は、どんな事情があっても戸籍上の親子関係は継続します。

唯一、親子関係に近い形で法的な関係を断つ方法は、親が再婚した相手と養子縁組をした後、その養子縁組を離縁することです。しかし、これは非常に限定的なケースであり、実の親子関係には適用されません。

法的な親子関係は切れない
どれほど親との関係が悪くても、虐待を受けていても、何十年も連絡を取っていなくても、法的な親子関係は継続します。これは日本の法制度の基本原則です。

親の扶養義務と介護義務は別物である

ここで重要なのは、扶養義務と介護義務は異なるという点です。

民法877条には、直系血族および兄弟姉妹は互いに扶養する義務があると定められています。これを「扶養義務」と呼びます。つまり、親が経済的に困窮した場合、子どもには経済的な援助をする義務が法律上存在します。

しかし、これは「経済的な支援」の義務であって、「直接的な介護」の義務ではありません。親の身体的な世話、日常生活の介助、病院への付き添いなど、介護そのものを行う法的義務は、実は存在しないのです。

つまり、極端に言えば、経済的に余裕があるなら最低限の経済的支援をする必要はあるかもしれませんが、自分の手で直接介護をする法的義務はないということです。

扶養義務の実態
扶養義務があるとはいえ、それは「自分の生活を犠牲にしてまで」求められるものではありません。家庭裁判所は、扶養義務者の生活状況を考慮した上で、扶養の範囲を決定します。

過去の虐待やネグレクトは法的に考慮されるか

「親から虐待を受けていた」「育児放棄されていた」。こうした過去の事実は、扶養義務を免除する理由になるのでしょうか。

民法には、著しい非行があった親への扶養義務を軽減または免除できるという解釈があります。過去に虐待やネグレクト、遺棄などがあった場合、家庭裁判所に扶養義務の免除を申し立てることができます。

ただし、これは自動的に認められるわけではありません。家庭裁判所が個別の事情を審査し、判断します。虐待の程度、期間、その後の関係性、親の経済状況、子どもの経済状況など、様々な要素が考慮されます。

実際に、過去の虐待を理由に扶養義務が免除された判例も存在します。しかし、すべてのケースで認められるわけではなく、ケースバイケースの判断となります。

扶養義務の免除を求めるには
過去の虐待やネグレクトを理由に扶養義務の免除を求める場合、まず弁護士に相談することをおすすめします。当時の状況を証明する資料(診断書、児童相談所の記録など)があると、より有利になります。

親の介護から距離を置く現実的な方法

法的に縁を切ることはできなくても、実質的に関わりを最小限にする方法は存在します。

介護サービスや施設を利用して直接介護を避ける

直接的な介護を避ける最も有効な方法は、介護サービスや施設を最大限活用することです。

デイサービス、訪問介護、ショートステイなど、介護保険サービスを組み合わせることで、あなたが直接介護をする機会を大幅に減らせます。ケアマネジャーに「できるだけ自分は関わりたくない」という希望を正直に伝えましょう。

また、介護施設への入所も選択肢です。特別養護老人ホームや有料老人ホームに入所すれば、日常的な介護はすべて施設スタッフが行います。あなたは面会に行く頻度をコントロールできます。

「親を施設に入れるなんて」という罪悪感を持つ必要はありません。過去にあなたを傷つけた親を、なぜあなたが犠牲になって世話しなければならないのでしょうか。プロに任せることは、合理的で現実的な選択です。

施設入所は逃げではありません
親を施設に入れることは、決して親不孝ではありません。特に、過去に虐待やネグレクトがあった場合、あなた自身の心身を守ることが最優先です。

成年後見制度を利用して第三者に任せる

親が認知症などで判断能力が低下している場合、成年後見制度を活用する方法もあります。

成年後見制度とは、認知症や精神障害などで判断能力が不十分な人を、法的に保護・支援する制度です。家庭裁判所が選任した成年後見人が、本人に代わって財産管理や契約行為を行います。

重要なのは、成年後見人は必ずしも親族がなる必要はないということです。弁護士や司法書士などの専門職後見人に任せることもできます。専門職後見人であれば、あなたは直接的に関わる必要がほとんどなくなります。

成年後見制度を利用すれば、介護施設の契約、財産管理、医療の同意など、すべて後見人が対応してくれます。あなたは最低限の連絡を受けるだけで済みます。

成年後見制度の申立て
成年後見制度の申立ては、本人の住所地の家庭裁判所に行います。申立てができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族などです。詳しくは弁護士や司法書士に相談しましょう。

生活保護制度を活用して公的支援に委ねる

親が経済的に困窮している場合、生活保護制度を利用することも一つの選択肢です。

生活保護の申請をすると、福祉事務所から扶養義務者(子ども)に連絡が来ることがあります。「扶養できるか」を確認する照会です。しかし、これに「扶養できない」と回答することは可能です。

特に、過去に虐待やネグレクトがあった場合、その旨を福祉事務所に伝えることで、扶養照会を回避できる場合もあります。厚生労働省の通知でも、虐待等があった場合は扶養照会を行わないよう指導されています。

親が生活保護を受給すれば、医療費や介護費用は公費で賄われます。あなたが経済的負担を負う必要はなくなります。

扶養照会への対応
福祉事務所からの扶養照会に対して、「扶養できない」と回答することは法的に問題ありません。過去の虐待やネグレクト、長期間の音信不通などの事情があれば、その旨を伝えましょう。

親との縁を切りたいと思う気持ちへの向き合い方

「親と縁を切りたい」と思うこと自体に、罪悪感を感じている方も多いでしょう。しかし、その感情は決して異常ではありません。

縁を切りたいと思うことは決して悪いことではない

虐待やネグレクト、精神的支配を受けてきた子どもが、親と縁を切りたいと思うのは極めて自然な感情です。

社会は「親を大切にすべき」「親孝行は当然」と言います。しかし、すべての親が子どもを愛し、大切に育てたわけではありません。傷つけ、苦しめ、人生を壊してきた親に対して、愛情を持てないのは当たり前です。

「親と縁を切りたい」と思うことは、あなたが冷たい人間だからではありません。それは自己防衛の本能です。これ以上傷つけられないように、心が発している警告なのです。

その感情を否定する必要はありません。むしろ、「縁を切りたい」と感じるほど傷ついてきた自分を、まず認めてあげてください。

コモちゃん
コモちゃん

「親と縁を切りたい」と思うことは、決してあなたが悪いのではありません。それだけ深く傷ついてきた証です。自分の感情を否定しないでくださいね。

過去の傷を癒すことを優先してもいい

親の介護よりも、あなた自身の心の傷を癒すことを優先すべき時があります。

幼少期からの虐待やネグレクトは、成人してからも深い傷として残ります。PTSD、うつ病、不安障害、愛着障害など、様々な形で心身に影響を及ぼします。

そんな状態で親の介護に関わることは、古い傷を再び開くことになります。親と接触するたびにフラッシュバックが起きる、体調が悪化する、精神的に不安定になる。こうした症状が出ているなら、まず自分の治療を優先すべきです。

心療内科やカウンセリングを受けることを検討してください。専門家のサポートを受けながら、ゆっくりと心の傷を癒していくことが大切です。親の介護は、その後に考えればいいのです。

自分を最優先にする勇気
親の介護よりも、自分の心身の健康を優先することは、決してわがままではありません。自分が壊れてしまっては、何もできなくなります。まず自分を守ることを最優先にしてください。

第三者の力を借りて心理的距離を保つ

親との関わりを最小限にするには、第三者を介在させることが有効です。

ケアマネジャー、介護施設のスタッフ、成年後見人など、専門家を間に挟むことで、あなたが直接親と接触する機会を減らせます。連絡も、これらの第三者を通じて行うようにすれば、心理的な距離を保てます。

また、兄弟姉妹がいる場合は、連絡窓口を兄弟姉妹に任せるのも一つの方法です。「自分は精神的に無理なので、連絡や対応はお願いしたい」と正直に伝えましょう。

もし親が直接連絡してくる場合は、着信拒否や住所非公開などの措置も検討してください。「冷たい」と思われることを恐れる必要はありません。あなたの心身を守ることが最優先です。

親の介護から自分を守るために知っておくべきこと

親の介護で縁を切ることを考えている方に、知っておいてほしい重要な情報があります。

専門家への相談で法的な選択肢を知る

親との関係で深刻に悩んでいる場合、まず弁護士や専門家に相談することをおすすめします。

扶養義務の免除や軽減、成年後見制度の活用、生活保護との関係など、法的な選択肢は複雑です。インターネットの情報だけでは不十分であり、個別の事情に応じた専門的なアドバイスが必要です。

法テラスでは、経済的に余裕がない方向けの無料法律相談を実施しています。また、自治体の法律相談窓口でも、弁護士に無料で相談できる機会があります。

過去の虐待やネグレクトについて、証拠となる資料(診断書、児童相談所の記録、警察への相談記録など)があれば、持参するとより具体的なアドバイスを受けられます。

相談できる専門家
• 弁護士:法的権利と義務の整理
• 司法書士:成年後見制度の相談
• 社会福祉士:福祉制度全般の相談
• 臨床心理士:心理的なサポート
• 地域包括支援センター:介護全般の相談

兄弟姉妹との役割分担を明確にする

兄弟姉妹がいる場合、役割分担を明確にすることで、あなたの負担を軽減できる可能性があります。

「自分は過去のトラウマがあって直接関わることができない」と正直に伝えましょう。そして、「経済的な支援はするが、直接的な介護や連絡は担当できない」など、できることとできないことを明確にします。

兄弟姉妹から「逃げている」「冷たい」と非難されるかもしれません。しかし、過去の虐待やネグレクトを受けたのがあなただけである場合、他の兄弟姉妹にはその痛みが理解できないのです。

理解を求めることは難しいかもしれませんが、少なくとも自分の限界を伝え、できる範囲での協力を提案することは重要です。

兄弟姉妹との関係
兄弟姉妹の理解が得られない場合、無理に説得する必要はありません。自分の心身を守ることを最優先に、できる範囲での関わり方を選択してください。

自分の人生を生きる権利を手放さない

最も大切なことは、あなたには自分の人生を生きる権利があるということです。

親の介護のために、あなたの人生を犠牲にする必要はありません。特に、過去にあなたを傷つけた親のために、今のあなたが苦しむ必要はないのです。

「親を見捨てるなんて」という社会の目を気にする必要もありません。あなたの事情を知らない他人が、何を言おうと関係ありません。あなたの人生は、あなたのものです。

自分を守ることは、わがままでも冷たいことでもありません。それは生きるための当然の権利です。その権利を行使することに、罪悪感を持つ必要はないのです。

親の介護で縁を切りたい気持ちを抱えるあなたへ―まとめ

親の介護で縁を切りたいと思うこと。それは、深く傷ついてきたあなたの正当な感情です。

日本の法律では親子の縁を完全に切ることはできません。しかし、実質的に関わりを最小限にする方法は存在します。介護サービスや施設の活用、成年後見制度の利用、生活保護制度の活用など、あなたが直接関わらずに済む選択肢はあるのです。

扶養義務はあっても、それは「自分の生活を犠牲にしてまで」求められるものではありません。ましてや、直接的な介護をする法的義務は存在しないのです。過去に虐待やネグレクトがあった場合、扶養義務の免除を求めることもできます。

大切なポイント
• 法的に親子の縁は切れないが実質的に距離を置く方法はある
• 扶養義務と介護義務は別物である
• 過去の虐待は扶養義務免除の理由になり得る
• 介護サービスや施設で直接介護を避けられる
• 成年後見制度で第三者に任せられる
• 自分の心の傷を癒すことを優先していい
• 専門家に相談して法的選択肢を知る
• 自分の人生を生きる権利を手放さない

最も重要なのは、あなた自身を守ることです。親の介護よりも、まず自分の心身の健康を優先してください。過去の傷を癒し、自分の人生を取り戻すこと。それが何よりも大切です。

「親と縁を切りたい」と思うことに、罪悪感を持つ必要はありません。それだけ深く傷ついてきた自分を、まず認めてあげてください。そして、専門家の力を借りながら、あなた自身を守る選択をしてください。

あなたには、自分の人生を生きる権利があります。その権利を、誰にも奪わせてはいけません。

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