「認知症の母の暴言がひどくて、もう耐えられない」「父が私に向かって汚い言葉を浴びせて、心が折れそう」「祖母の暴言が激しくて、家族全員が疲弊している」
認知症の方のひどい暴言に悩まされている家族は決して少なくありません。認知症ケアに関する調査では、家族の約6割が暴言を含む行動・心理症状(BPSD)に強いストレスを感じており、そのうち約3割が「日常生活に深刻な影響を受けている」と回答しています。
認知症のひどい暴言は、適切な理解と対処法により軽減することが可能です。しかし、間違った対応をすると状況がさらに悪化してしまうこともあります。この記事では、暴言がひどい時の緊急対処法から根本的な軽減策まで、具体的で実践的な方法をお伝えします。
認知症でひどい暴言が出る理由と背景
認知機能低下による不安と混乱のメカニズム
認知症によるひどい暴言を理解するためには、まず認知機能の低下がどのように本人の心理状態に影響を与えるかを知ることが重要です。暴言は決して本人の性格が悪化したわけではなく、脳の機能障害による症状の一つなのです。
認知症により最も影響を受けるのが記憶機能です。短期記憶の障害により、「なぜここにいるのか」「今何をしているのか」「さっき何が起こったのか」が分からなくなります。この記憶の混乱は強い不安を生み出し、その不安が攻撃的な言葉として表現されることがあります。
判断力の低下も暴言の大きな要因となります。状況を正しく理解できないため、善意でサポートしてくれている家族を「邪魔をする人」「悪い人」と誤解してしまうことがあります。特に、身体介護や薬の管理などで本人の意思に反することをせざるを得ない場面では、家族を敵対視してしまうことが多くあります。
言語機能の障害も暴言の背景にあります。自分の気持ちや要求を適切な言葉で表現することができなくなると、最も強い感情である怒りや不満が暴言として噴出することがあります。「痛い」「不安だ」「寂しい」といった気持ちを、「バカ」「死ね」「邪魔だ」といった攻撃的な言葉でしか表現できなくなるのです。
実行機能の障害により、感情のコントロールができなくなることも重要な要因です。健康な状態であれば、怒りを感じても理性でコントロールできますが、認知症により前頭葉の機能が低下すると、感情の抑制が困難になります。わずかなきっかけで激しい怒りが爆発し、ひどい暴言となって現れることがあります。
時間や場所の見当識障害も暴言を引き起こします。「ここは自分の家ではない」「知らない人に囲まれている」「昔の職場にいる」といった混乱状態では、恐怖感や警戒心から防衛的な暴言を発することがあります。
さらに、認知症の方は「感情の記憶」が残りやすいという特徴があります。不快な出来事の詳細は忘れても、その時の嫌な感情だけは残ってしまうため、似たような状況になると過去の嫌な感情が蘇り、暴言として表現されることがあります。
これらの認知機能の障害が複合的に作用することで、本人は常に混乱と不安の中にいる状態となります。その混乱と不安が限界に達した時、暴言という形で外に噴出するのです。家族にとってはひどい暴言に感じられますが、本人にとっては精一杯の表現方法なのかもしれません。
暴言をSOSサインとして理解する重要性
認知症のひどい暴言を適切に対処するためには、それを単なる「問題行動」として捉えるのではなく、本人からの「SOSサイン」として理解することが重要です。この視点の転換により、暴言への対応方法も大きく変わってきます。
暴言の多くは、本人が何らかの不快感や困りごとを抱えていることを示しています。身体的な痛み、のどの渇き、空腹、便秘、暑さ、寒さといった基本的な不快感を、認知機能の低下により適切に表現できないため、暴言として現れることがあります。「うるさい」「邪魔だ」という暴言の背景に、実は「お腹が痛い」「トイレに行きたい」という切実な訴えが隠されている場合があります。
孤独感や疎外感も暴言の大きな原因となります。家族が忙しそうにしている、会話に参加できない、自分だけが置いてけぼりになっているといった感覚から、注意を引こうとして暴言を発することがあります。「死ね」「消えろ」といった激しい言葉の裏に、「構ってほしい」「話を聞いてほしい」という切ない気持ちが隠されていることがあります。
恐怖感からの防衛反応としての暴言も多く見られます。認知症により状況判断ができなくなると、介護者の善意の行動も「攻撃」と受け取ってしまうことがあります。入浴介助、着替えの手伝い、薬の服用指導などが、本人には「襲われている」「危害を加えられている」と感じられ、自己防衛のために激しい暴言を発することがあります。
コントロール感の喪失も重要な要因です。自分で決められることが少なくなり、常に誰かに管理されている状況では、せめて言葉だけでもコントロールしようとして暴言を使うことがあります。「自分はまだ力がある」「言うことを聞かせることができる」という感覚を得るために、家族を困らせるような暴言を発することがあります。
過去の記憶との混同による暴言もあります。現在の家族を昔の嫌な上司や同僚と勘違いして、その時の怒りや恨みが暴言として蘇ることがあります。また、戦時中の体験や幼少期のトラウマが混乱して暴言となって現れることもあります。
自尊心の傷つきによる暴言も見逃せません。できないことが増える、失敗が多くなる、子ども扱いされるといった経験により自尊心が傷つき、それが怒りや暴言として表現されることがあります。「バカにするな」「まだ大丈夫だ」という気持ちが、攻撃的な言葉として現れるのです。
これらのSOSサインを理解することで、暴言への対応も変わってきます。暴言そのものを止めようとするのではなく、その背景にある本人の困りごとや気持ちに注目し、それらを解決することで暴言を軽減することができます。
暴言がひどくなる環境要因と誘発要素
認知症の暴言は、環境要因や様々な誘発要素により悪化することがあります。これらの要因を理解し、適切に管理することで、暴言の頻度や強度を大幅に軽減することが可能です。
身体的な不調は暴言を悪化させる最も重要な要因の一つです。便秘、尿路感染症、脱水、栄養不良、痛み、発熱などの身体的問題があると、不快感から暴言が激しくなることがあります。特に、痛みを適切に表現できない場合、その不快感が暴言として現れることが多く見られます。
薬の副作用も見逃せない要因です。新しい薬の開始、薬の増量、複数の薬の相互作用などにより、一時的に暴言が悪化することがあります。特に、睡眠薬、抗不安薬、抗精神病薬などの精神に作用する薬は、逆に興奮や暴言を引き起こすことがあります(逆説反応)。
環境的な刺激も暴言の誘発要因となります。騒音、明るすぎる照明、人の多さ、テレビの大きな音、工事の音などは、認知症の方にとって大きなストレスとなり、暴言を引き起こすことがあります。認知症により刺激に対する適応能力が低下しているため、健康な人には気にならない程度の刺激でも、強い不快感を与えることがあります。
生活リズムの乱れも暴言を悪化させます。睡眠不足、食事時間の不規則、活動と休息のバランスの乱れなどにより、本人の体調や精神状態が不安定になり、暴言が増加することがあります。特に、夕方から夜にかけての「夕暮れ症候群」では、暴言を含む様々な問題行動が悪化することが知られています。
介護者の態度や対応も暴言に大きな影響を与えます。介護者が疲れていてイライラしている、感情的になって対応している、急かしている、命令口調で話しているといった場合、本人もそのストレスを感じ取って暴言で反応することがあります。また、介護者が変わることも、暴言の誘発要因となることがあります。
環境の変化も重要な要因です。住み慣れた場所からの移住、家族構成の変化、介護体制の変更、季節の変化、家具の配置変更などは、認知症の方にとって大きなストレスとなり、暴言を悪化させることがあります。
社会的な刺激も暴言に影響します。来客が多い、外出が頻繁、知らない人との接触が多いといった状況では、本人の混乱や不安が高まり、暴言が増加することがあります。
栄養状態や水分摂取の問題も見逃せません。低血糖、脱水、ビタミン不足などにより、脳の機能がさらに低下し、暴言が悪化することがあります。また、アルコールの摂取やカフェインの過剰摂取も、暴言を誘発することがあります。
これらの誘発要素を一つずつチェックし、改善できるものから対処していくことで、暴言を大幅に軽減することができます。環境の調整は、薬物療法よりも効果的で安全な場合が多く、まず最初に検討すべき対策です。
認知症のひどい暴言への緊急対処法
暴言発生時の安全確保と距離の取り方
認知症のひどい暴言が発生した時、最優先すべきは安全の確保です。暴言がエスカレートすると暴力に発展する可能性もあるため、適切な距離の取り方と安全確保の方法を身につけることが重要です。
まず、物理的な安全を確保することから始めます。本人が興奮している時は、手の届く範囲に危険な物(包丁、はさみ、重い物など)がないかを素早く確認します。もし危険な物がある場合は、本人を刺激しないよう自然に片付けるか、その場から離れるよう促します。決して慌てて物を取り上げようとしてはいけません。
適切な距離を保つことも重要です。あまり近づきすぎると、本人が圧迫感を感じて暴言がエスカレートする可能性があります。一方で、遠すぎると「無視されている」と感じて不安が増すこともあります。一般的には、2-3メートル程度の距離を保ち、本人の表情や様子を観察しながら調整することが適切です。
自分の位置取りにも注意が必要です。本人の正面に立つと対立的な印象を与えるため、やや斜めの位置に立つことが効果的です。また、出入り口をふさがないよう注意し、いつでも避難できるような位置を確保することが大切です。高い位置から見下ろすような姿勢も威圧的に感じられるため、できるだけ本人と同じ目線の高さで対応します。
身体的な接触は避けることが基本です。暴言が激しい時に肩に手を置いたり、抱きしめたりすることは、本人にとって攻撃と受け取られる可能性があります。どうしても身体的な誘導が必要な場合は、本人の同意を得てから、ゆっくりと優しく行います。
一時的にその場を離れることも有効な対処法です。暴言がひどくエスカレートしている時は、「お茶を入れてきます」「電話に出ます」「トイレに行ってきます」といった自然な理由で一時的にその場を離れ、本人が落ち着くのを待ちます。この時、完全に放置するのではなく、隣の部屋から様子を見守ることが大切です。
他の家族や第三者がいる場合は、役割分担をすることも効果的です。一人が本人に対応している間に、もう一人が危険物の除去や環境の調整を行ったり、必要に応じて専門機関に連絡を取ったりします。ただし、人数が多すぎると本人が圧迫感を感じるため、基本的には一人が対応し、他の人は少し離れた場所で待機することが適切です。
緊急時の連絡先を事前に確認しておくことも重要です。かかりつけ医、地域包括支援センター、緊急時相談ダイヤルなどの連絡先を手の届く場所に用意しておき、必要に応じてすぐに連絡できるようにしておきます。
安全確保のための環境整備も日頃から行っておくことが大切です。危険な物は手の届かない場所に保管する、転倒しやすい物は固定しておく、緊急時に避難しやすいよう動線を確保しておくなど、予防的な対策を講じておきます。
感情的にならない具体的な対応技術
認知症のひどい暴言に対して感情的にならずに対応することは、非常に困難ですが、状況を改善するためには不可欠なスキルです。具体的な技術を身につけることで、冷静に対応できるようになります。
まず重要なのは、深呼吸による感情のコントロールです。暴言を聞いた瞬間に感情的になりそうになったら、意識的に深呼吸を3回行います。「1、2、3」と心の中で数えながら深く息を吸い、ゆっくりと吐き出すことで、自律神経を整え、冷静さを取り戻すことができます。
「病気が言わせている」という認識を常に頭に置くことも重要です。暴言を聞いた時に、「これは認知症の症状であり、本当のお母さん(お父さん)の気持ちではない」と自分に言い聞かせることで、個人的な攻撃として受け取ることを避けることができます。
声のトーンと話し方にも注意が必要です。本人が興奮している時こそ、こちらは意識的に低く、穏やかな声で話すことが効果的です。早口になったり、大きな声を出したりすると、本人の興奮がさらに高まってしまいます。ゆっくりと、はっきりと、優しい声で話すことを心がけます。
言葉の選び方も重要です。否定的な言葉(「違います」「ダメです」「やめてください」)は避け、肯定的な言葉を使います。「つらいですね」「大変でしたね」「困りましたね」といった共感的な言葉を使うことで、本人の気持ちを受け止めていることを示します。
聞き流すスキルも身につける必要があります。暴言の内容をすべて真に受けるのではなく、「感情の表現」として受け取ることが大切です。具体的には、暴言の言葉よりも、その背景にある感情(不安、恐怖、孤独感など)に注目することが効果的です。
気分転換の技術も有効です。暴言が始まったら、本人の好きな話題、楽しい思い出、関心のあることについて話を向けることで、気分を変えることができます。「昔のお仕事の話を聞かせてください」「お好きだった歌はなんですか」といった質問が効果的です。
時間をかけることを受け入れることも重要です。すぐに暴言を止めようとするのではなく、本人の気持ちが自然に落ち着くまで時間をかけて対応することが大切です。急いで解決しようとすると、かえって状況が悪化することがあります。
記録を取る習慣をつけることも、感情的になることを防ぐのに役立ちます。いつ、どのような状況で暴言が起きたか、どのような対応が効果的だったかを記録することで、客観的に状況を把握できるようになります。
絶対にやってはいけない対応と注意点
認知症のひどい暴言に対して、絶対にやってはいけない対応があります。これらの対応は状況を悪化させるだけでなく、本人の尊厳を傷つけたり、関係性を破綻させたりする危険性があります。
最も避けるべきなのは、暴言に暴言で応じることです。「何を言っているの!」「いい加減にして!」「そんなことを言うなんて最低ね!」といった感情的な言葉は、本人の興奮をさらに高め、暴言をエスカレートさせてしまいます。また、本人の人格を否定するような言葉(「わがまま」「困った人」「病気のくせに」)は、深く傷つけてしまいます。
論理的に説得しようとすることも逆効果です。認知症により論理的思考が困難になっているため、「それは間違っています」「よく考えてみてください」「昨日も同じことを言いましたよね」といった理詰めの説得は、混乱を深めるだけでなく、自尊心を傷つけてしまいます。
力で抑制することは絶対に避けなければなりません。暴言がひどいからといって、体を押さえつけたり、部屋に閉じ込めたり、ベッドに縛り付けたりすることは、人権侵害であり、恐怖感や被害妄想を増大させてしまいます。また、身体的な制止により、思わぬ怪我をさせてしまう危険性もあります。
無視をすることも適切ではありません。暴言がつらいからといって完全に無視をすると、本人の孤独感や疎外感が増し、より激しい暴言や問題行動を引き起こすことがあります。また、「見捨てられた」という感情から、さらに攻撃的になることもあります。
脅しや罰を与えることも絶対に避けるべきです。「そんなことを言うなら施設に入れますよ」「もう知りません」「お医者さんに言いつけますよ」といった脅しは、恐怖感を与えるだけでなく、信頼関係を破綻させてしまいます。
過度な同調も問題となることがあります。暴言の内容が妄想や現実とは異なることであっても、すべてを肯定してしまうと、妄想を強化してしまうことがあります。否定はしないものの、妄想の内容を積極的に支持することは避けるべきです。
薬に頼りすぎることも注意が必要です。暴言が起こるたびに睡眠薬や安定剤を使用することは、依存や副作用の問題を引き起こす可能性があります。薬は医師の指導のもとで適切に使用し、まずは非薬物的な対応を試すことが重要です。
複数の人で一度に対応することも避けるべきです。家族みんなで説得しようとしたり、大勢で取り囲んだりすると、本人は圧迫感を感じ、さらに興奮してしまいます。基本的には一人が対応し、他の人は少し離れた場所で見守ることが適切です。
急激な環境変化を強いることも問題です。暴言がひどいからといって、すぐに施設入所を決めたり、住環境を大きく変えたりすることは、本人の混乱を深めてしまう可能性があります。変化が必要な場合は、段階的に、本人のペースに合わせて行うことが重要です。
認知症のひどい暴言を根本的に軽減する方法
環境調整と刺激の軽減策
認知症のひどい暴言を根本的に軽減するためには、本人を取り巻く環境を適切に調整し、不必要な刺激を軽減することが重要です。環境の改善は、薬物療法よりも安全で効果的な場合が多く、まず最初に取り組むべき対策です。
音環境の調整は暴言軽減に大きな効果があります。テレビの音量を下げる、ラジオを消す、大きな話し声を控える、工事音や交通騒音を遮断するなど、不必要な音を減らすことが重要です。一方で、本人が好きだった音楽や自然音(鳥のさえずり、川のせせらぎなど)を小さな音量で流すことは、リラックス効果があります。
照明の調整も効果的です。明るすぎる蛍光灯は興奮を誘発することがあるため、白熱灯や間接照明に変更することを検討します。自然光を適度に取り入れつつ、夕方以降は徐々に照明を暗くしていくことで、体内時計を整え、夕暮れ症候群による暴言を軽減することができます。
室温と湿度の管理も重要です。暑すぎたり寒すぎたりすると不快感から暴言が増加することがあります。室温は20-25度、湿度は50-60%程度に保つことが理想的です。エアコンの風が直接当たらないよう注意し、季節に応じて適切な調整を行います。
色彩の工夫も暴言軽減に役立ちます。赤や黄色などの刺激的な色は興奮を誘発することがあるため、青や緑、ベージュなどの落ち着いた色を多用することが効果的です。カーテン、クッション、壁紙などの色を見直すことで、穏やかな環境を作ることができます。
馴染みのある物の配置も重要です。長年使っていた家具、思い出の写真、愛用していた物などを適切に配置することで、安心感を与えることができます。新しい物や見慣れない物は混乱を招くことがあるため、できるだけ馴染みのある物を使用します。
人の動きや訪問者の管理も考慮すべきです。頻繁な来客、大勢の人の出入り、慌ただしい家族の動きなどは、本人にとってストレスとなります。静かで落ち着いた環境を保ち、訪問者は必要最小限に抑えることが効果的です。
生活リズムの調整も暴言軽減に重要です。規則正しい食事時間、適度な活動と休息、決まった就寝時間などにより、体内時計を整えることで、精神的安定を図ることができます。特に、日中の適度な活動と日光浴は、夜間の睡眠の質を改善し、暴言を軽減する効果があります。
刺激の段階的調整も効果的です。急激な環境変化は避け、少しずつ環境を調整していくことで、本人が新しい環境に適応しやすくなります。また、本人の反応を見ながら、刺激の強さを調整することも重要です。
個別性を重視した環境作りも大切です。本人の好み、生活歴、職歴などを考慮して、その人らしい環境を作ることで、安心感と自己肯定感を高めることができます。元教師だった方には本や文房具を、元料理人だった方には調理道具を見えるところに置くなど、個人の背景に配慮した環境調整が効果的です。
専門家による治療と薬物療法の活用
認知症のひどい暴言に対しては、環境調整と並行して専門家による治療を受けることが重要です。適切な医学的評価と治療により、暴言を大幅に軽減することが可能です。
まず、認知症専門医や精神科医による包括的な評価を受けることが重要です。暴言の背景にある認知症の種類、進行度、併発している精神症状、身体的問題などを詳しく評価してもらいます。暴言が認知症によるものなのか、他の精神疾患によるものなのか、薬の副作用によるものなのかを正確に診断することが、適切な治療の第一歩となります。
抗認知症薬の適切な使用も効果的です。ドネペジル(アリセプト)、ガランタミン(レミニール)、リバスチグミン(イクセロンパッチ、リバスタッチパッチ)、メマンチン(メマリー)などの抗認知症薬は、認知機能の改善だけでなく、行動・心理症状(BPSD)の軽減にも効果があることが報告されています。ただし、効果には個人差があり、副作用にも注意が必要です。
精神症状が強い場合は、向精神薬の使用が検討されることもあります。抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬、気分安定薬などが、症状に応じて使用されます。しかし、高齢者への向精神薬の使用は副作用のリスクが高いため、専門医による慎重な判断と定期的な見直しが必要です。
身体的な問題の治療も重要です。便秘、尿路感染症、痛み、栄養不良、脱水などの身体的問題が暴言の原因となっている場合があります。これらの問題を適切に治療することで、暴言が劇的に改善することがあります。
非薬物療法も積極的に活用すべきです。音楽療法、回想法、アロマテラピー、ペットセラピー、園芸療法、運動療法などが、暴言を含む行動・心理症状の軽減に効果があることが報告されています。これらの療法は副作用が少なく、本人の生活の質の向上にもつながります。
定期的な医学的評価と治療の見直しも欠かせません。認知症は進行性の疾患であり、症状や薬の効果は時間とともに変化します。3-6ヶ月ごとに医師の評価を受け、治療方針を見直すことが重要です。
多職種によるチームアプローチも効果的です。医師だけでなく、看護師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、栄養士、社会福祉士などの専門職が連携することで、包括的なケアを提供することができます。
家族への教育とサポートも治療の重要な要素です。認知症や暴言への理解を深め、適切な対応方法を学ぶことで、家族のストレスが軽減され、結果的に本人の症状も改善することが期待できます。
家族のストレス管理と外部サポートの利用
認知症のひどい暴言に長期間対応するためには、家族自身のストレス管理と外部サポートの積極的な利用が不可欠です。家族が健康で安定していることが、結果的に本人の症状改善にもつながります。
まず、家族自身のメンタルヘルスケアを最優先に考えることが重要です。介護者の約4割がうつ症状を示しているという調査もあり、家族の精神的健康は深刻な問題です。定期的にカウンセリングを受ける、家族会に参加する、信頼できる人に話を聞いてもらうなど、感情の発散とサポートを受ける機会を作ることが大切です。
物理的な休息を確保することも重要です。デイサービス、ショートステイ、訪問介護などのサービスを積極的に利用して、定期的に介護から離れる時間を作ります。「親を預けるのは申し訳ない」という罪悪感を持つ家族も多いですが、家族の休息は持続可能な介護のために必要不可欠です。
家族間での役割分担も見直すべきです。一人にすべての負担を集中させるのではなく、それぞれができる範囲で役割を分担します。直接的な介護、経済的支援、情報収集、手続き代行、精神的サポートなど、様々な形での貢献があることを理解し、みんなで支え合う体制を作ります。
専門的なサポートサービスも積極的に利用します。地域包括支援センター、認知症地域支援推進員、認知症初期集中支援チームなど、認知症に特化したサポートサービスが多数あります。これらのサービスを利用することで、専門的なアドバイスや具体的な支援を受けることができます。
介護者向けの教育プログラムや研修会にも参加することをお勧めします。認知症ケアの知識や技術を学ぶことで、より効果的で負担の少ない介護方法を身につけることができます。また、同じような状況にある人たちとの交流により、孤立感を軽減することもできます。
将来の計画を立てることも重要です。このまま在宅介護を続けるのか、施設入所を検討するのか、どのような支援を利用するのかなど、将来の見通しを立てることで、不安を軽減し、現実的な対策を講じることができます。
経済的な支援も検討すべきです。介護保険サービスの利用、各種減免制度の活用、家族への経済的支援の相談など、介護にかかる経済的負担を軽減する方法があります。経済的な不安が軽減されることで、精神的な負担も軽くなります。
健康管理を怠らないことも重要です。介護のストレスで自分の健康を害してしまっては、継続的な介護ができなくなります。定期的な健康チェック、適切な食事、十分な睡眠、適度な運動を心がけ、自分自身の健康を守ることが大切です。
まとめ
認知症のひどい暴言は、家族にとって非常につらい体験ですが、適切な理解と対処により軽減することは可能です。重要なのは、暴言を本人からのSOSサインとして理解し、その背景にある不安や混乱に寄り添うことです。
緊急時の対処法として、安全の確保、適切な距離の保持、感情的にならない対応を身につけることが重要です。また、絶対にやってはいけない対応を避けることで、状況の悪化を防ぐことができます。
根本的な軽減策としては、環境調整、専門家による治療、家族のストレス管理が重要です。特に、家族自身が健康で安定していることが、結果的に本人の症状改善にもつながります。
認知症の暴言は一朝一夕に解決できる問題ではありませんが、適切なサポートと継続的な努力により、必ず改善の道筋を見つけることができます。一人で抱え込まず、専門家や地域のサポートを積極的に利用することが重要です。
もし現在、認知症のひどい暴言で悩んでいるのなら、まずは地域包括支援センターや認知症専門医に相談してみてください。あなたの状況に応じた具体的なアドバイスとサポートを受けることができるはずです。家族みんなが安心して生活できる方法を、一緒に見つけていきましょう。
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