「70代になった父親が些細なことで怒るようになった」「穏やかだった母親が最近キレやすくなって心配」「これって認知症の始まりなの?それとも単なる老化現象?」
70代の親が怒りやすくなったという相談は、介護や高齢者医療の現場で非常に多く寄せられます。実際に、高齢者の約3割が何らかの感情コントロールの変化を経験するといわれており、家族にとって深刻な悩みとなっています。
この記事では、70代の父親・母親が怒りやすくなった原因を医学的観点から詳しく解説し、認知症による怒りっぽさと一時的な感情変化の見分け方をお伝えします。また、家族が今すぐ実践できる対処法から、専門家への相談タイミングまで、具体的で実用的な情報を提供いたします。
70代の父親・母親が怒りやすくなった主な原因
70代の父親・母親が怒りやすくなる原因は多岐にわたります。単純な「わがまま」や「性格の問題」ではなく、医学的・心理的・環境的要因が複合的に作用していることを理解することが重要です。
加齢による脳機能変化と感情コントロールの低下

70代の父親・母親が怒りやすくなった最も根本的な原因は、加齢による脳機能の変化です。
脳の前頭前野は、感情のコントロールや判断力、理性的な思考を司る重要な部位です。この前頭前野は加齢とともに萎縮しやすく、70代では20代と比較して約10~15%の容積減少が見られることが医学研究で明らかになっています。
感情の抑制機能の低下により、些細なことでイライラしやすくなります。若い頃であれば「まあいいか」と流せていたことでも、感情的な反応を示すようになります。
衝動性の増加も特徴的な変化です。「言ってはいけない」と理性では理解していても、思ったことをそのまま口にしてしまう傾向が強くなります。
状況判断能力の低下により、周囲の状況や相手の感情を適切に読み取ることが困難になり、不適切なタイミングで怒りを爆発させることがあります。
男性更年期と女性ホルモン変化による影響

ホルモンバランスの変化も、70代の父親・母親が怒りやすくなった重要な原因の一つです。
男性の場合、テストステロン(男性ホルモン)の低下が大きく影響します。テストステロンは30代をピークに年間約1~2%ずつ減少し、70代では若い頃の半分以下になることも珍しくありません。
テストステロン低下による精神的症状には、情緒不安定とイライラの増加、不安感や憂うつ感の出現、意欲低下と疲労感、集中力の低下などが挙げられます。これらの症状により、些細なことでも感情的になりやすくなります。
女性の場合は、閉経後のエストロゲン減少が長期にわたって影響を与えます。70代女性では更年期症状は落ち着いているものの、エストロゲン不足による脳機能への影響は継続します。
エストロゲンは脳の神経保護作用があり、不足することで感情調節機能が不安定になります。特に、記憶力や注意力の低下により、物事がうまくいかないストレスから怒りっぽさが増すことがあります。
身体的疾患と薬の副作用による怒りやすさ

身体的疾患や服用している薬の副作用も、70代の父親・母親が怒りやすくなった原因として見落とされがちな重要な要素です。
慢性疾患による影響では、糖尿病による血糖値の変動が感情の不安定化を引き起こします。特に低血糖状態では、イライラや攻撃性が増すことが知られています。
高血圧や動脈硬化による脳血流の低下は、脳機能に影響を与え、判断力や感情コントロール能力を低下させます。慢性的な酸素不足状態では、些細なストレスに対しても過剰反応を示しやすくなります。
甲状機能低下症では、うつ傾向とともに易怒性(いどせい)が現れることがあります。また、慢性腎臓病による尿毒症では、意識レベルの低下とともに感情変化が見られる場合もあります。
薬の副作用による怒りやすさも重要な要因です。ステロイド系薬剤では、精神症状として興奮状態や攻撃性の増加が報告されています。睡眠薬や抗不安薬では、効果が切れた際の反跳性の興奮や、薬物依存による離脱症状として怒りっぽさが現れることがあります。
降圧薬の一部では、脳血流の過度な低下により意識レベルや感情状態に影響を与える場合があります。複数の薬剤の相互作用により、予期しない精神症状が現れることもあります。
認知症による怒りやすさと単なる老化の見分け方
70代の父親・母親が怒りやすくなった場合、最も心配になるのが認知症の可能性です。認知症による怒りっぽさと、加齢による一時的な感情変化には明確な違いがあります。
認知症特有の怒りのパターンと症状

認知症による怒りやすさには特徴的なパターンがあり、単なる加齢による感情変化とは明確に区別できます。
認知症特有の怒りの特徴として、まず挙げられるのが「妄想に基づく怒り」です。「物を盗まれた」「家族が自分をだましている」といった被害妄想により、事実とは異なる状況に対して激しく怒ります。
「混乱による怒り」も典型的な症状です。時間や場所がわからなくなり、なぜここにいるのか、なぜ介護されているのかが理解できずに怒り出します。「家に帰らせて」「なんで私をここに閉じ込めるの」といった発言が頻繁に見られます。
「失敗に対する過剰反応」も認知症の特徴的な怒りパターンです。できていたことができなくなった自分への苛立ちや、周囲から「物忘れがひどい」と指摘されることへの反発として激しい怒りを示します。
認知症に併発する他の症状も重要な判断材料です。記憶障害の進行では、同じことを何度も聞いたり、重要な約束を忘れたりする頻度が明らかに増加します。見当識障害により、現在の年月日、今いる場所、自分の年齢などが正確に答えられなくなります。
実行機能障害では、料理や掃除など今まで当たり前にできていた複雑な作業ができなくなります。言語機能の低下により、適切な言葉が出てこない、相手の話が理解できないといった症状も現れます。
一時的な怒りっぽさと病的な変化の判断基準

70代の父親・母親が怒りやすくなった場合、一時的な感情変化と病的な変化を区別することが重要です。
一時的な怒りっぽさの特徴:原因が明確で、ストレスや体調不良など具体的な要因が特定できます。例えば、配偶者の病気、経済的心配、身体の不調など、理解できる理由があります。
時間的な変動があり、良い日と悪い日の差が明確です。朝は機嫌が良くても夕方に疲れて怒りやすくなる、体調の良い日は穏やかに過ごせるといったパターンが見られます。
基本的な認知機能は保たれており、記憶力や判断力に大きな変化はありません。怒った後に「さっきは感情的になってしまって申し訳なかった」といった反省や自覚が見られます。
病的な変化(認知症の可能性を示唆)の特徴:人格の根本的変化が見られ、「人が変わったよう」という表現がよく使われます。今まで温厚だった人が攻撃的になる、几帳面だった人が無頓着になるなどの変化です。
進行性の悪化があり、月単位、年単位で症状が徐々に悪化していきます。一時的な改善があっても、全体として右肩下がりの経過をたどります。
複数の認知機能低下が同時に現れ、記憶、注意力、判断力、言語機能などが包括的に低下します。日常生活への支障も明確で、今まで自立してできていたことに介助が必要になります。
専門医受診を検討すべき「危険サイン」
• 急激な性格変化(1~2ヶ月で明らかに変わった)
• 記憶障害との併発(怒った理由も忘れてしまう)
• 妄想的な怒り(事実と異なることで怒る)
• 暴力的行動(家族や物に手を上げる)
• 日常生活の支障(怒りにより生活が成り立たない)
専門医への受診タイミングと相談すべき症状

70代の父親・母親が怒りやすくなった場合、適切なタイミングで専門医に相談することが重要です。早期受診により、治療可能な原因の発見や症状悪化の防止が期待できます。
緊急受診を要する状況:暴力行為や自傷行為が見られる場合は、速やかな医療介入が必要です。家族や介護者への暴力、物を投げる・壊すといった行動、自分自身を傷つける行為などが該当します。
幻覚や重度の妄想により、現実認識が著しく困難になっている状態も緊急性があります。存在しない人や虫が見える、被害妄想により外出や食事を拒否するといった症状です。
1~2週間以内の受診を推奨する状況:記憶障害との明確な併発が見られる場合です。同じことを何度も聞く、重要な約束や予定を忘れる、最近の出来事を全く覚えていないといった症状と怒りやすさが同時に現れている状態です。
日常生活能力の明らかな低下も早期受診の目安です。料理、掃除、金銭管理、服薬管理など、今まで自立してできていたことに明らかな支障が生じている場合です。
1ヶ月程度での受診を検討する状況:性格変化の持続があり、一時的なストレスでは説明できない人格の変化が1ヶ月以上続いている場合です。社会生活への支障が生じ、近所付き合いや友人関係に問題が生じている状況も含まれます。
受診先の選択指針:かかりつけ医での初期相談が最も受診しやすい選択肢です。普段の様子を理解しており、必要に応じて専門医への紹介も受けられます。
精神科・神経内科は、認知症や精神疾患の専門的診断が可能です。脳神経外科では、脳血管疾患や脳腫瘍などの器質的疾患の検査ができます。
70代の父親・母親が怒りやすくなった時の実践的対処法
70代の父親・母親が怒りやすくなった場合、家族の対応方法が症状の改善や悪化に大きく影響します。適切な対処法を身につけることで、本人の症状軽減と家族の負担軽減の両方を実現できます。
感情的にならない接し方と会話のコツ

70代の父親・母親が怒っている時の適切な会話技術は、状況の改善に直結する重要なスキルです。
基本的な会話の原則として、「否定しない」が最も重要な原則です。「それは違う」「そんなことはない」といった否定的な言葉は、相手の怒りをさらに激化させます。事実と異なることを言われても、まずは「そう感じているんですね」と受け止める姿勢を示します。
「共感を示す」ことで、相手の感情を落ち着かせることができます。「辛い思いをされているんですね」「心配になりますよね」といった、感情に寄り添う言葉を使います。
「理由を聞き出そうとしない」ことも大切です。「なぜ怒っているの?」「理由を教えて」といった質問は、本人が説明できずにさらにイライラする原因となります。
効果的な言葉かけの具体例:怒りの表現に対して「お疲れになったでしょう」「大変でしたね」といった労いの言葉。不安の表現に対して「一緒にいますから大丈夫ですよ」「安心してください」といった安心感を与える言葉。混乱している場合「今は○○時で、ここは○○です」といった現実見当識を提供する言葉。要求がある場合「少し考えてみますね」「どうしたら良いか相談してみましょう」といった前向きな対応を示す言葉。
危険回避と距離を置く適切な方法

70代の父親・母親の怒りが激しく、暴言や暴力の危険性がある場合は、安全確保を最優先とした対応が必要です。
緊急時の安全確保手順として、危険物の除去を最優先に行います。包丁、はさみ、カッター、ナイフなどの刃物類、ハンマーや工具類、投げつけられる可能性のある重い物品を、さりげなく手の届かない場所に移動させます。
安全な距離の確保では、相手の手が届かない距離(約2メートル以上)を保ちます。部屋の出入り口付近に位置取りし、いつでも退避できる状況を作ります。相手を追い詰めないよう、背後に壁がない場所に誘導することも重要です。
段階的な距離の取り方
第1段階:同室内での距離確保では、「お茶を用意してきますね」「電話に出てきます」といった自然な理由で一時的に離れます。
第2段階:別室への移動では、「トイレに行ってきます」「洗濯物を取り込んできます」といった日常的な用事を理由に別の部屋に移動します。
第3段階:外部への避難では、危険性が高い場合、「買い物に行ってきます」といった理由で一時的に家を出ます。
緊急時の連絡先準備:医療機関(かかりつけ医、精神科、救急外来の連絡先)、行政機関(地域包括支援センター、市区町村の高齢者相談窓口)、緊急時(警察110番、救急119番)、家族・親族(兄弟姉妹、親戚などの緊急連絡先)を準備しておきます。
家族全体での役割分担と負担軽減策

70代の父親・母親が怒りやすくなった状況に対処するには、家族全体での協力体制が不可欠です。一人だけに負担を集中させることは、長期的に見て持続不可能です。
効果的な役割分担の方法として、直接対応者の分散により、一人が常に対応するのではなく、複数の家族で交代制を取ります。「朝は長男、昼は次男、夕方は長女」といったスケジュール管理で、全員が休息時間を確保できます。
得意分野での分担も効果的です。医療関係の対応(通院付き添い、医師との面談)、生活支援(買い物、掃除、洗濯)、精神的サポート(話し相手、レクリエーション)、事務手続き(保険申請、施設見学)などを、各家族の得意分野で分担します。
遠距離家族の参加方法として、経済的支援では、直接介護はできなくても、介護費用の分担や介護用品の購入で貢献できます。情報収集・調査により、遠方からでもインターネットで介護サービス事業者や医療機関の情報収集を担当できます。
定期的な電話やビデオ通話で本人との関係を維持し、直接介護をしている家族の精神的支援も行えます。月1回程度の集中的な支援で、まとまった期間(2~3日)の集中的な支援を行い、普段介護している家族に休息を提供します。
外部サービスとの連携では、介護保険サービスの活用により、デイサービス、訪問介護、ショートステイなどを組み合わせ、家族の負担を軽減します。地域包括支援センターとの連携で、ケアマネジャーと相談しながら最適なサービスプランを作成します。民間サービスの利用では、介護保険外のサービスも検討し、見守りサービス、家事代行、配食サービスなどを組み合わせることで、より手厚いサポートが可能になります。

70代の親の怒りやすさは、必ず原因があります。単なる「わがまま」と決めつけず、医学的・心理的背景を理解して、家族全体で支えることが大切なんです。一人で抱え込まず、必ず専門家に相談してくださいね。
70代の父親・母親の怒りやすさ改善へ向けた根本的対策:まとめ
70代の父親・母親が怒りやすくなった現象は、決して珍しいことではありません。加齢による脳機能の変化、ホルモンバランスの変動、身体疾患や薬の副作用など、複数の要因が複合的に作用している可能性があります。
認知症による怒りっぽさと一時的な感情変化には明確な違いがあり、妄想に基づく怒り、混乱による怒り、記憶障害との併発などが認知症特有のパターンです。これらの症状が見られる場合は、早期の専門医受診が重要になります。
家族の対応方法として、否定しない・共感を示す・理由を追及しないという基本原則を守り、危険時には適切に距離を取ることが大切です。また、一人で対処せず、家族全体での役割分担と外部サービスの活用により、持続可能な支援体制を構築することが必要です。
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重要なのは、「年だから仕方ない」と諦めるのではなく、適切な原因の把握と対応により、本人と家族双方の生活の質を向上させることです。専門家との連携により、より良い解決策を見つけていきましょう。
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